日本の林業は,一方に巨大な企業体である国有林を,他方に零細な規模の私有林を多数かかえている。
私有林は,林家・会杜・団体・共同・社寺・慣行共有など複薙な所有形態にわかれているが,大部分が林家(林野保有世帯)によって保有されている。林家の総数は270万戸,うち95%までが農家である。林野保有農家率は43%(中国地方59%)であるから,大づかみに言って,わが国農家は2戸に1戸の割合で林野を保有する。農業経営と林野保有は密接なつながりを持つと言えよう。しかし,農家の保有する林野規模は零細であって,会社の1事業体当り225町に対し,1戸当り2.34町(中国地方2.37町)の保有にすぎず,5町未満の小規模階層が全体の40%の比重をしめている。
日本経済の高度成長のもとで,農山村の経済構造は大きく変貌した。なかでも労働力の他産業への流出は,もっとも顕著な現象と言えよう。農林業就業人口は,昭33年に1,500万を割って以来毎年40~50万人ずつ減少し,昭39年には1,200万を割った。
林野の合理的利用──それは,変貌を余儀なくされている山村が,自らの苦悩の中に見出さんとしている,ほとんど唯一の方策であろう。傾斜地の農業的利用・農家林業問題がクローズ・アップざれてきたのは,その一端を物語っている。しかし傾斜地の農業的利用の可能性をもつ地域が,きわめて限られている現状では,林野を林野のままで,所得増大に結びつける具対策を見出すことが緊急の課題である。そのためには,山村地域の経済構造と農家林業の実態が解明されなくてはならぬ。
われわれは,中国地方において2つの調査地区を選んだ。1つは農家林業がすでに相当の発展をとげている,いわば先進林業地域であり,いま1つは,林業発展の可能性が一応約束されていると考えられながらも,まだ明確な目標をつかみ得ていない,ごく普通の山村である。
前者は島取県日野郡日南町,後者は島根県飯石郡頓原町であるが,この報告は紙数の関係から頓原町のみをとり上げる。なお,山村の経済構造分析についても,詳論のスペースがほとんど無いので,将来の農家林業の中核となる経営主体発見へのアプローチとして,個別農家の経営・収益構造の現状分析を中心として記述する。