戦後30年間に,日本人の食生活は,所得水準の上昇,欧米文化との接触の機会が増すとともに,「洋風化」,「欧米化」してきたと一般にいわれている。この場合,洋風化とは,米消費量の減少,パン消費量の増加,肉・乳等の畜産食品の消費量の増加,西洋野菜・果実の消費量の増加のような,食料品消費の種類,質・量および料理法における欧米的方法の普及等を意味することは周知のとおりである.特に,食肉消費量の増加率は昭和30年代から40年代前半までは極めて高かった.最近,鈍化しているが,依然,増加しており,今後の需要予測においても,安定的な消費需要増加が見込まれ,生産供給量の増加が要請されている.
本稿でこのような課題をとりあげたのは,日本にとって,欧米諸国は,食肉の新しい消費,調理法,食肉加工品の製造技術のモデルとなる先進国であり,また,最近食肉加工品の輸入先となってきたこと,さらに,肉牛・肉豚の品種改良のための種畜輸入先であるにもかかわらず,それらの国の畜産食品,特に食肉消費面の実態が知られていないからである.また,その他にも,日本の食肉産業は,その20年間の発展過程において,欧米の製造技術を導入し,また特にアメリカの会杜と資本提携を行なう等,欧米諸国の日本の食肉産業との関係も密接なものがある.
本稿では,欧米諸国の代表として,西ヨーロッパ地域(西欧)をとりあげ,おもに,西ドイツとフランスを対象として,最近10年間,特に,1970~1972年を中心とした期間における食肉とその加工品の消費の実態,消費を規制する要因について述べ,さらに,日本の食肉およびその加工品の消費動向,加工産業の発展との関連等についてもふれたいと思う・
なお,西ドイツとフランスを対象としてとりあげた理由について簡単に説明しておきたい.この2国はその文化の類型において対照的であることは周知のとおりであるが,まず,フランスは,牛肉消費量が豚肉等の消費量より相対的に多く,また,加工品よりも生肉からの料理を好む食習憤を持つ国の代表であり,西ドイツは,牛肉よりも豚肉の消費量が多く,しかも,豚肉加工品を多く消費する国の代表である,すなわち,この2国は,西欧における食肉消費の2類型としてとりあげることができるのである.なお,アメリカの消費の実態を対照的に引用したのは,新開国アメリカは,イギリスを中心とした西ヨーロッパ全体を母国としており,その平均的食肉消費構造において,イギリス的タイプを根底に,さらに国内で,数種類の地域的特色をもつ新らしいタイプを形成しており,日本との関係も消費生活面において密接なものがあるからである.唯是康彦氏の研究によっても,このような食生活のタイプの世界各国間の相違が示されている.唯是氏は,世界各国のメニューの類型を分析するため,世界38ケ国およびそこから選択した欧米20ケ国の食料消費について主成分分析法(Principal Component Analysis)を適用し,主成分係数と各国の主成分スコアを試算している.表1のように,西ドイツとイギリスに対して,フランスは,同じ西欧型のなかにおいて,南欧的色彩をもち,対照的なタイプである.また,西ドイツとイギリスは同じ西欧類型に属しているが,西ドイツはやゝ北欧的色彩をもち,イギリスとアメリカはやゝ似ている.アメリカとカナダは同じ類型である.また,日本は戦後食生活が欧風化,近代化したといわれており,また,食肉消費量が増加しているが,台湾,韓国等と同じグループに属している.
本稿の執筆に際して,主として,西ドイツとフランスの統計年鑑,FAOの統計資料,報告を使用した.また,筆者の1972年7月,74年11月の2回にわたる短期間の西欧各国における視察,調査の際に収集した資料も利用していることを付け加えておきたい.