島根大学農学部研究報告

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島根大学農学部研究報告 1
1967-12 発行

野菜の市場と小売価格 : 名古屋市の事例

A Study on Marketing and Retail Price of the Vegetables
猪股 趣
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内容記述(抄録等)
ここ数年来,物価論議に際して,必ず問題とされるもののひとつに野菜がある.野菜は日常必需品であるので,
価格変動,ことに価格高騰の場合には,一般消費者に与える経済的,心理的影響はきわめて大きい.
 これまで,野菜の生産事情,流通事情,消費事情については専門的な研究が進められ,またマスコミを通じて世間に広く訴えられてきた.
 行政当局においても,物価問題解決のカナメのひとつとして,昭和38年7月に「生鮮食料品流通改善対策要綱」を閣議決定し,生鮮食料品の流通の合理化および流通経費の節減を図ることとし,さらに昭和40年2月には科学技術庁資源調査会から「食生活の体系的改善に資する食料流通体系の近代化に関する勧告」が科学技術庁長官に対しておこなわれ,流通の合理化,近代化を徹底し,野菜を含む生鮮食料品価格の安定を実現すべく勧告がなされている.他方,野菜の生産地側に対しても,指定産地制度,安定基金制度などの施策が講じられてはいるが,問題の解決には,なお程遠い.
 このように,野菜の価格問題に対する研究,議論,行政施策がなされてはいるが,現実の野菜価格は安定性を欠き,時にはバカ高い現象を呈することすらあり,こと,野菜価格に関しては,生産者側にも,消費者側にも,不信の念さえ存在している.ことに野菜の小売価格の高騰は,ある時期には物価上昇の元凶といわれたことすらある.
 物価問題の中核として,これまで野菜の価格について多くの検討が加えられてきたが,小売段階についての調査研究資料は意外に少ない.問題の所在は,広くかつ深く,その究明,解決には,多くの調査データの積み重ねを必要としよう.そこで本稿では,名古屋市において実施した調査のデータによって,複雑な野菜流通現象のうち,小売段階についての事実の一端をしめし,あわせて,名古屋市中央卸売市場の野菜流通機構についても部分的にふれ,野菜価格に関する論議の素材を提供することとしたい.