本稿は、既に発表したW・W・クツクの学説の紹介の続きをなすもので、クツクの反致論の解明と若干の乏しい考察をなすことによって、反致論に就いての筆者の考えを整理せんとの意図に出でたものに外ならない。
はじめに、論旨の混乱を避けるため、反致の一般的意味を確定する必要があろう。ふつう反致論というのは、内国国際私法の規定により、ある渉外私法関係が甲国法によるとせられる時、甲国の国際私法規定若しくは甲国の指定する乙国の国際私法規定をも考慮して準拠法を決定すべしとの理論である。従つて、反致論とは内国国際私法規定がそれと牴触する外国国際私法規定に屈服する場合を認める理論であり、その意味で反致論は牴触法の牴触に関する問題であること、ひいては、国際私法の現実と機能的要請との背離に絡む本質的な問題であることは、ひろく認められている。