Johann Peter Hebel が文学史上にその名を留めるのは二つの作品によつてである。従つて大抵の場合わずかに数行を与えられるばかりで,その意味ではいわゆるマイナ・ポェツの一人に過ぎまい。しかしこの二つの作品 Alemannishe Gedichte と Shatzkastlein des rheinischen Hausfreundes とは,いずれもそれぞれの系譜に独自の地位を占める特異なものである。すなわち後者は極めて短い掌篇形式に人さまざまな世相を捉えて独自の境地をひらき,爾来いく度も模傲されながらついに凌駕されることなく最近のWilhelm Schaferにまで至つているし、前者も18世紀後半から19世紀にかけて発展したVoss からGroth,Reuterに至る方言文学に彼らのPlattdeutschを用いたのに対してひとりAlemannischを用いて独歩し今世紀にはいつてはLienert,Burteらの後継者を見出している。またそこに描かれた農民の姿は彼らと同じ高さにおり立つて把握され,彼らのもつ単純な心と低い生活の美と力と深さとがGotthlf,Auerbach,Roseggerらの一連の農村小説作家にさき立つてここにはじめてその正しい表現を得たものと評されている。
しかし用語の関係からであろうKasteinは別としてAlemannische Gedichteの方はまだほとんどわが国に紹介されていないように思われるので,以下紙数の許す範囲でその成立,特色,思想などを窺つてみることにする。