Journal of economics

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Journal of economics 23
1997-03-31 発行

QOL(Quality of Life)産業論 : 島根県における地域経営と産業政策

QOL (Quality of Life) Industry : Social Management and Industrial Policy of Shimane Prefecture
Tomino, Kiichiro
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はじめに
 島根県における地域経営を議論する上で、東京一極集中の裏返しとしての過疎問題は前提条件であり、確かに過疎や産業基盤の脆弱性などに起因するこの地域のさまざまな課題は、本質的に日本の高度経済成長の過程における国家レベルの国土開発・産業政策によって必然的にもたらされた日本の社会経済システムの二重構造が島根県において典型的にあらわれたものであった。その意味において、これまで実施されてきた県内における産業政策や地域活性化対策そして農業振興政策にもかかわらず地域の発展が困難であったのは、日本社会全体の構造が主な要因であり、地域における諸政策の効果には限界があったためと考えられる。
 しかしそのような構造要因は90年代以降急速に消失しつつあり、その結果島根県は現在新たな危機と新たな機会を目の前にして、従来とは異なる基盤に立った地域経営戦略の構築を迫られている。
 90年代に入って、日本の高度経済成長を主導し支えてきた第2次産業におけるポーダレス化・空洞化が、国際情勢の激変の影響も受けて決定的に進行することによって、従来の産業経済システムはその存立基盤を失い、日本全体の社会システムの再構築が政治・行政・金融・産業活動のすべての面にわたって急速に進行しようとしている。
 そのなかで、県内における地域政策は、高度経済成長期における中央政府・公共事業依存と企業誘致を組み合わせる追随型地域振興や、中山間地域における自立的かっ狭域的な地域経営戦略によって地域社会の維持発展を導き出す方法論に閉塞し、県内においては、成熟化した社会経済状況を背景に集中から分散・分権へと新たな社会システムに転換しつつある日本社会の動向に適合した新たな地域経営政策を独自に展開する必要性がいまだに十分認識されていない。
 本稿は、日本の社会システム転換の方向と関連して島根県における地域経営を議論する基礎条件を明確にした上で、求められる新たな産業政策を北欧における開発指向型中小企業の事例と島根県内中小企業の事例に即して論じ、最後に若年人口定住化政策の具体例の検討を通じて産業政策と中山間地域を含む統合的地域経営について考察し、地域経営と産業政策を統合的に議論する新たな枠組みを提案する試論である。
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