Memoirs of the Faculty of Education, Shimane University. Natural science

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Memoirs of the Faculty of Education, Shimane University. Natural science 17
1983-12-25 発行

柔道の基礎的研究(III)

Fundamental Study on the Judo(III)
Fujioka, Masaharu
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 現在,国際柔道連盟には121ヶ国が加盟し,毎月1~2の国際大会が開催されていると言われるほど柔道の国際化は進んでいる。はたして加納治五郎の創設した真の柔道が普及発展しているのであろうか。この国際柔道の主流をなす西欧では「今や柔道で日本から学ぶものはなにもない」と言うほど隆盛を極め,実力を備えた西洋スタイルの柔道を,イギリスの柔道理論家J.B.ハンソンロウ氏は「西洋の数多くの柔道家の特性は,たとえ乱取の時でも投げられることを非常にきらうことである。この態度は畳の上に真直ぐ立つ自然体以外のどんな動きでもするという著しい傾向を惹起している」そして「勝つことが唯一の目的であり,それ以外はよけいなことであり,勝つためにすべての努力が注がれる」と言い「西洋の柔道スタイルは日本古来の柔道スタイルから遠く離れてしまっている」と言っている。
 このような国際柔道に対し「受身の下手に名人なし」と言われ「受身を取る」と言われる柔道の稽古法は「自然体の姿勢と襟・袖を持つ組み方を基本とし,崩し作り掛けの理によって軽妙敏速な心身自在の動きにより技術練習する」方法である。そして試合に勝てば良いのではなくその勝ち方を問題とし,更に技を磨き質を高めようとする柔道である。
 このような日本柔道も,体重制の採用(小人が大人に勝てなくなった)や東京オリンピック以後数回にわたる審判規定の改正(特に第34条10項の厳しい摘要→強大な体力が必要になった)により国際柔道審判規定と大差なくなり,急速に国際柔道化の方向に進みつつある、この一つの現われとして杉山氏は「今や柔道精神という言葉はもはやこの世から消え失せたかと思われるほど耳にすることが極めてまれである」と言っている。これらの諸々の総合されたものが「勝つこと以外はよけいなこと」とする柔道化の方向である。この方向は「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である。柔道の修行は攻撃防禦の練習によって身体精神を鍛練し斯道の神髄を体得することである。そしてこれによって己を完成し世を稗益するのが柔道修行の究極の目的である」とする加納柔道は,この余分と考える中に存在し,又日本の風土の中から生まれ伝承されて来た柔道の文化的価値をも消滅させるものであり,全く異質の柔道と化す恐れがある。柔道がどの方向へ進むか,今がその重大な岐路にあると言える。
 加納師範は”柔道の本義と修行の目的”の中で「講道館柔道は,その武術的方面のみについていっても加納治五郎は自分の工夫を教えたのではなく誰でも自分がそれに基づいて工夫し得る根本原理を教えたのである(中略),後世どうすればよいか分からなくなったらその原理を辿って求むれば自然本当のことが分かって来るのである」と言っている。この根本原理とは,自由自在の動きを可能にする「自然体の理」、相手の力を無効にする「柔の理」,勝機を作る「崩しの理」である。従って今原点に立ち帰り根本原理を究明し,真の加納柔道を知ることが正しい柔道の方向及び正しい普及発展につながるものと考える。