今日でも「ヴォルフの作品は難解である」と云われるが,しかしまぎれもなく彼はドイツリート史上,最大で最後の作曲家であった。何故彼の作品が難解に考えられたのかは,従来考えられてきたリートに対する概念の相違,つまりヴォルフ以前のリート作曲家の「詩と音楽」についての考察,そこから作り出されて来たリートの概念をはるかに越えているからであろう。詩に対する態度はシューマンの流れを汲み,さらに彼独自の世界を造っていった。つまり彼の作風の多様性はそれぞれの詩に対する完壁な理解を表わし,彼の霊感は彼の生命の炎が燃えつきる程,詩に対して真実の世界を追究したのであった。
この小論はドイツリートを学ぶ者にとって,ヴォルフの作品を抵抗なく楽しめるように,アイヒェントルフ歌曲集の中から詩と音楽を,又それぞれの作品がいかに秦されるべきかを述べたものである。楽符は”Peters”版を使用した。アイヒェンドルフを題材としたのは,この論集・前号に「シューマンとアイヒェンドルフ」を述べたので,同一詩人をシューマンやヴォルフがどのように見ていたかも比較出来ることからアイヒェンドルフを選んだのである。