パウル・クレーは音楽性を豊かに感じさせる色彩あふれる画面とメルヘンの世界に誘いかける繊細な響き、線描や記号の絵画として、ひろく知られるスイスの芸術家そしてドイツ・バウハウスの教授、美術教育者でした。本稿は、浜田市世界こども美術館創作活動館の開館ならびに開館記念展『こどもたちのパウル・クレー展』の意義について述べるとともに同展に寄せてアレキサンダー・クレー氏が祖父パウル・クレーの造形表現について述べた講演に基づいて、パウル・クレーの造形思考と造形表現にある「プリミィティブ」について研究する。
パウル・クレーは、音楽によって結ばれた母と音楽教師の父を両親として、幼い頃から音楽に親しみ、少年時代にベルン室内楽団のバイオリニィストとして活躍するほどの音楽的な才能に恵まれ、ドイツ文学に親しみ感銘して詩を書きながらも、美術の道を志そうとして惑う青年期の悩みは良く知られている。ミュンヘンの美術学校に学び、ピアニストのリリーシュトゥンプを妻としてクレーの生活はいつも音楽に満ち溢れていた。パウル・クレーの表現世界にはそうした繊細で響きの豊かな線描と調和する色彩のひろがりという画面に、音楽性豊かな響きと美しい色彩の調和が感じられる。