Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science

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Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science 29
1995-12 発行

学生相談にみられる青年期後期の心理的課題と援助 : 女子学生の事例から

The Psycological Tasks of the Late-Adolescence and the Mental Supports on the Student Counseling
Onishi, Toshie
Tsumori, Yoko
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1.はじめに
 大学のキャンパスで行う心理相談には、さまざまな問題をもった学生が訪れる。筆者(大西)が学生相談に関わるようになって、およそ15年が経過した。その間に出会った学生の主訴や問題をおおまかに分類すると、1.対人関係に関する悩み対人恐怖。対人関係がうまくいかない。友人ができない。指導教官とのトラブルなど。2.パーソナリティの問題一無気力。抑うつ。強迫傾向。3.家族との関係。家族間のトラブル。4.進路への不安。5.精神症状による危機的状態などである。
 山本(1987)は、学生の悩みを1.システムからの孤立。2.専攻、学部の変更やサークルでうまくいかないなどシステムとの不適合からくるアンフィットネス。3.成長発達の課題に直面している問題。4.精神症状による混乱ケースの4つに分けている。
 乾(1986)は、学校カウンセリングのなかで課題となる代表的な内容を1.学校との関係で生じる問題。2.家庭との間の問題。3.来談者自身の問題と大きく3つに分けている。
 鶴田(1990 1991 1992 1993 1994a)は、学生相談に関して一連の研究を報告している。それによると、大学生の個別相談事例について、来談学年により違いがあるとし、代表的な事例にもとづいて1年生は、今までの生活から耕しし、大学生活への移行期で、悩みや課題を契機として「学生の側からのオリエンテーション」に取り組んでいて、それは4つの型に分けられること、2年生は大学からの枠組が緩やかとなって、内面的な課題に取り組む「あいまいさの中での深まり」が見られること、また、卒業期に来談した学生は、面接を通して大学生活を振り返る作業をしていく中で、「もう一つの(内面的世界の)卒業論文」を書くような心理的作業を行っていると述べている。また、鶴田(1994b)は、特に卒業期に自発来談した事例から面接の中で行われた心理的作業について記述し、その特徴から卒業期の意味について考察している。
 この他学生相談に関する研究は事例研究を中心として数多くある(田畑1978全国学生相談会議1991 1992吉良1993大河内地1993)。
 相談機関に自発的に来談する学生の多くは、心理的に比較的健康であり、3か月から半年ぐらいの短期間の面接で、必要な情報を得たり、自分の問題を客観的に見つめることによって整理することができるケースも多い。時には、1回だけのガイダンスや親や指導教官に対するコンサルテーションで学生の精神的援助となることもある。しかし、青年期の発達課題に直面して、なかなか乗り越えることができないケースに対しては、卒業にいたるまで何年にもわたる長期の援助が必要なケースも稀ではない。
 青年期後期にある大学生の時期には、自我同一性を確立するという重要な課題に直面する。そのためこれまでの発達において未達成の諸問題が再燃し、課題となる時期でもあり、精神的に不安定になりやすい。われわれは、学生相談活動の中で、それまでどうにか持ち越してきた問題にどうしても直面せざるを得ない状況に立ちいたって、自分一人では乗り越えることができなくなり、苦悶したり、混乱している青年と出会うことが多い。
 筆者は、先に思春期の入口でつまづき、危機的状況に陥った二人の少女の事例から、思春期心性、母娘関係、学校の問題について考察した(大西1989)。
 本稿では、いわば思春期の出口にいたって、積み残した問題に取り組まざるを得なくなって、混乱状態を来して来談した二人の女子大学生の事例をとりあげ、青年期後期(大学生)の問題および「卒業」することの意味、さらにそのような学生を援助することの意義と留意点について考察する。