Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science

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Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science 15
1981-12-25 発行

青年期における自己対象化と存在論的危機

Self-Objectification and Ontological Crisis in Adolescence
Tsutsumi, Masao
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 水面に映った己が姿に魅せられて,ついには池に沈み,水仙となって甦ったというナルシスの神話は,我々にいったい何を語りかけているのだろう。
 水鏡に映し出された自己の像との出会いは,彼に「見る自己」とr見られる自己」とに引き裂かれた自己の現在を覚知させ,それが,2つの自己の統合をはかる,入水という行為に向かわしめた。
 そのような逸話として解すると,我々はそこに現代の青年の姿を重ね合わせてみてとることが可能となる。

 鏡に向かうとか,カメラの前に立つとかの状況におかれると,自己意識の覚醒化(self-awareness)といわれる心理的現象が生じる。このような事態では,自己評価の低下,即ち自己否定化傾向がみられるという研究がある(Ickes,W.J.,Wicklund,R.A.,& Ferris,C.B.,1973)。
 青年期とはまさしく,自己意識の昂まりと,それと相即しての,自己を映し出す鏡たる他者の存在に対する意識の昂まりをその特徴とする時期である。そこにはナルシス的な,自己にとっての危機的状況が予感される。