Title Transcription
ムスコ ト コイビト ロン
File
Thumnail a006006h006.pdf 2.08 MB ( 限定公開 )
language
jpn
Author
[Sakemoto, Masayuki]
Description
古今のどの作家を例にとつてみても、その作品が僕達の感動を誘う以上、その文学的生涯を貫く何らかの執念がある筈だ。具体的に云えば、社会の反人間性によつて疏外された作家の人間性が、その疎外のあおりの強さに応じて凝縮され、その事によつて一定の輸廓を執るとともに、凝縮による密度の増大によつて一つの執念と化す――この密度の凝縮度、云い換えれば執念の激しさこそ、文学的感動を支える主要な支柱である。D.Hロレンスが、初期の傑作「息子と恋人」の最終稿を完成したのは、一九一ニ年九月、即ち恩師アーネスト・ウィークリィの妻フリイダと「不倫な」関係に陥り、その事で道徳的な英国の社会から指弾され、云わばその流講の地であるイタリアのガルニァノに於てであつた事を想起しよう。何故なら、ロレンスはこの事件を契機として、自己の作家的方向を発見したからである。彼にとつては如何なる批判をも許し得ぬ人間的真実であつたこの恋愛を「不倫」であると非難されたことで、社会にとつては不倫であり彼にとつては真実であつたこの人間関係の追求にこそ、彼の作家的方向がある事が明かになつたのである。彼の全人的な真実が、道徳と云う抽象的暴力によつて限定される時、限定の埒外に取りとされた部分が、とり残されたことで凝縮し、今度は逆にその密度の圧力を駆つて、社会の抽象的暴力に反逆するのである。繰り返して云えば、この事件はロレンスの生涯にとつて決定的な出来事であつた。それは、社会の実体に明確な輪廓を与え、その照り返しとして、それに反逆する自己の方向も明瞭に照し出されたからである。即ち、この事件は、ロレンスに生涯かけて追求すべき問題を提起したのである。その問題とは、如何なる規定をも許さない具体的な人間同志の結びつきを、遺徳と云う抽象性で規定しつくそうとする社会の暴力の虚偽に対して、完全な人間関係のあるべき形を探る事であつた。
Journal Title
島根大学論集. 人文科学
Volume
6
Start Page
74
End Page
87
ISSN
04886518
Published Date
1956-02-21
NCID
AN00108183
Publisher
島根大学
Publisher Aalternative
Shimane University
NII Type
Departmental Bulletin Paper
OAI-PMH Set
Faculty of Law and Literature