島根大学法文学部紀要. 文学科編

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島根大学法文学部紀要. 文学科編 5 1
1982-12-25 発行

奈良盆地における一在村地主経営の構造とその展開

A Resident-Landowner in Nara District : Structure and Development of his Management
竹永 三男
ファイル
a003000501h001.pdf 5.39 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
本稿の課題は、奈良盆地の一在村中地主を対象として、その経営構造の成立・展開遇程を具体的に分析することにある。この個別分析は現在の研究状況の中で、当面次の三つの意義をもつであろう。
第一に、近代日本における地主制史研究の中で、所謂「近畿型」地帯に属するとされる地主経営分析は最近その数を増したものの、依然として「もっと多くの個別分析を必要とする」段階にある上に、「近畿型」地帯の中心である”畿内”の地主経営については、その具体的様相は殆ど明らかにされていない。しかも、「近畿型」地帯に属するとされる従来の地主経営分析が、まず大地主を対象として行われてきたことからすれぱ、中小零細地主地帯である。地方就中”畿内〃の、典型となるべき中小地主経営の分析は、「近畿型」地帯・「近畿型」地主経営の全体像の構築と明確化のためにも必要不可欠であろう。「近畿の零細地主を中心とした高度の地主制地帯である」奈良県=奈良盆地の地主経営分析の第一の意義はこの点にある。
第二に、『地主制と米騒動』の外は従来なされてこなかった奈良盆地の地主経営分析は、それ自体固有の意義をもつ。即ち、日本で最も古くから展開し、借地林業制度・山守制度・材木同業組合制度(後述)によって特色づけられる吉野林業地帯を控えた奈良盆地では、一般的に指摘される地主的土地所有(小作料収取)と有価証券投資に加え、山林(立木・地上権)所有が独立した一部門をなして特有の地主経営類型(後述)を形成しているからである。従って本稿の分析の一つの力点も、ここにおかれるであろう。
最後に、戦前期の農民運動史上、香川県とならんで奈良県は、筆者がかつて論じたようにその最高の発展段階を現出した。しかし、それを主導したのは奈良県では村外大地主の支配する村落の運動であった。従って楯のいま一つの半面における矛盾の在り方を検討するためにも、非争議地域の農業・農村構造、地主―小作関係の分析が必要とされる。在村中地主を分析対象とすることの第三の意義はここにある。
以上の点をふまえて、以下、奈良県旧南葛城郡忍海村大字西辻(現北葛城郡新庄町)の在村中地主・辻本正兵衛家の分析に移ろう。但、同家史料の残存状況に規定されて、分析の中心が一九〇〇年から一九二六年におかれること、家計・租税公課・貸金等の部門については全く明らかにできないことを予め断っておく。
NCID
AN00108081